『宿泊業』における技術・人文知識・国際業務ビザ

~単純労働と不法就労を避けるために~

はじめに:宿泊業界における外国人材の活用

訪日外国人観光客の増加により、ホテルや旅館など宿泊業界では外国人材の採用が進んでいます。特に語学力や異文化理解を備えた人材は、インバウンド需要に応えるうえで大きな戦力です。

一方で、技術・人文知識・国際業務ビザ(以下「技・人・国ビザ」) は、高度な専門性を前提とする在留資格です。本来は通訳や企画、国際業務といった専門性を要する業務を想定していますが、実務現場では清掃や配膳といった単純業務に従事させてしまうケースも少なくありません。

このような誤用は、在留資格の趣旨に反するだけでなく、外国人材の能力を十分に活かせない結果を招きます。今後は審査の厳格化が見込まれるため、「正しい理解と適正な活用」 に基づいた人材配置が宿泊業界の持続的成長に不可欠です。


技・人・国ビザとは?(基礎知識)

ビザの定義

技・人・国ビザは、以下のように分類されます。

  • 技術 👉 理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術もしくは知識を有する業務

    具体例:機械設計や回路設計などに従事する機電系エンジニアや、アプリケーションやシステムなどを開発するシステムエンジニア、プログラマー、情報セキュリティエンジニア、等

  • 人文知識 👉 法律学、経済学、社会学その他人文科学の分野に属する技術もしくは知識を要する業務

    具体例:企画、営業、マーケティング、広報、経理、人事、法務、総務、コンサルティング、商品開発、等

  • 国際業務 👉 外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務に従事する活動

    具体例:翻訳、通訳、語学の指導、海外取引業務、デザイナー、貿易、通訳が主業務のホテルマン、等

    ※単に外国人であるだけではなく、日本国内の文化の中では身につかない思考・感受性に基づく一定の専門的業務である必要があります
    「通訳・翻訳・語学の指導」以外の業務に従事しようとする場合、従事予定業務に関連する業務に3年以上の実務経験を有している必要があります

活用の前提

このビザは 「専門知識や国際性を活かす仕事に従事すること」 が前提であり、誰でもできる単純労働は対象外です。
適切に運用すれば、外国人材は能力を発揮し、企業にとっても国際競争力を強化する大きな支えとなります。


宿泊業における「許可される業務」と「注意が必要な業務」

許可される業務の例(適法なケース)

  • フロントでの外国人宿泊客対応(語学力を活かした接客)

  • 通訳・翻訳業務

  • 予約管理や顧客データの分析

  • 海外OTA(オンライン旅行会社)との折衝や企画立案

  • コンシェルジュ業務や広報・マーケティング

👉 これらは語学力や国際感覚を前提とした業務であり、技人国ビザの趣旨に合致します。

注意が必要な業務の例(不適法とされやすいケース)

  • 客室清掃(ベッドメイキング、掃除機がけ等)

  • 荷物運搬(ベルスタッフ業務)

  • レストランでの配膳や厨房補助

👉 これらは「単純労働」と判断されやすく、技人国ビザの対象にはなりません。
ただし、研修や一時的な補助として付随的に行う場合には一定の余地があります。その際は「主従関係がどちらか」を明確にし、資料上でも 専門業務が中心であること を示す工夫が必要です。


実際に起き、問題となっている事例

  • 不許可事例
    雇用契約上は「フロント業務」と記載して申請したが、実態は清掃や配膳が中心であると判断され、不許可となったケース。

  • 更新時の取消事例
    「研修名目」で長期にわたり現場作業に従事させた結果、主業務が単純労働と判断され、在留資格更新時に取消となったケース。

👉 いずれも「業務設計の不明確さ」「説明不足」が原因です。逆にいえば、業務内容を明確に設計し、根拠資料を整えていれば回避できたリスク です。


実務上の留意点と対応策

1. 業務内容を明確化する

雇用契約書や申請理由書には、「語学力を活かす」「インバウンド対応を担う」 など専門性や国際性を具体的に記載しましょう。

2. 在留カードの確認を徹底する

採用時には、在留資格や有効期限、資格外活動の有無を必ず原本で確認することで、法的リスクを防げます。

3. 付随業務の範囲を管理する

清掃や配膳は補助的・一時的な位置づけにとどめ、主務が国際業務であることを資料上も明確にしておきましょう。

4. 専門家に相談する

判断が難しい場合は、行政書士などの専門家に相談し、事前にリスクを回避できる体制を整えることが推奨されます。


まとめ

技・人・国ビザは、宿泊業界にとって 国際サービスの質を高めるための大きなチャンス を与える在留資格です。
誤った運用は不利益につながりますが、本来の趣旨に立ち返り「専門性と国際性を活かした業務」に従事させることで、外国人スタッフも企業も安心して成長できます。

今後は「厳格化」ではなく「適正化」が進むと考えるべきです。
在留資格を正しく理解し、積極的に活用することが、宿泊業界における外国人材活用のカギとなるでしょう。

当事務所では、技・人・国ビザの申請書類作成に加え、業務設計やその後のキャリアップまで幅広くサポートしています。
宿泊業における外国人材活用を前向きに進めたい方は、ぜひ一度ご相談ください。


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👨‍💼 行政書士 須田充(愛知県行政書士会所属)